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グリッド

グリッド

ビルの窓から下の方を眺めているとき,突然ガラスの向こうの景色の中に網目が奥行きのある形に見えて,自分の目を疑ったという経験はないでしょうか。そんなとき,瞬きを我慢してしばらく見続けていると,外に向かって広がる網目は何重にも交差していてしかも揺らいでいるように見えます。

普段は,窓ガラスに針金が入っていることすら気付かずに過ごしていることが多く,そこを通して外を見ているときでも,針金が気になるということはほとんどないのではないでしょうか。注意して見ると,透明なガラスに補強のための細い針金が二センチメートルほどの間隔で斜めの格子状に入っている窓が意外とたくさんあります。そういった窓では,針金の格子が外に向かって飛び出している様子が見られます。これも立体視による現象です。窓の外の景色に視線が向けられているとき,左右の目はその手前にある格子の異なった部分を別々にとらえ,その二つの像が偶然に重なり合った結果,平行視が成立します。格子の一部分で立体視が成立すると,そこから視線を徐々に移動させて,立体視できる範囲を拡張することができます。すると,格子の一つひとつのブロックは目との距離や角度がわずかずつ異なるので,全体として格子は奥に向かって飛び出しているように見えます。

この現象を見るには,顔と窓の距離や見る角度をうまく調整する必要があります。窓から二,三十センチメートルほど離れたところに立ち,斜め横から外部を見下ろすようにすると比較的簡単に立体像が現れます。この立体視の場合も視線を向けるのはあくまで外の景色で,窓の針金ではありません。針金を直接に見た瞬間,でき上がっていた立体像も消滅してしまいます。絶対に針金を見ないといった覚悟が必要なくらいです。しかし,矛盾するようですが,景色に視線を合わせていても格子の存在を意識することは重要です。意識することによって,今まで気にもとめなかった針金が景色と同時に目に映っているのがわかるはずです。外部の景色に視線を向け,しかも針金は意識するだけにしながら,顔の向きや外の景色の対象をいろいろ変えてみてください。

この現象も見慣れてくると,視線を少しくらいさまよわせても立体視像が崩れなくなってきます。すると,頭や身体のわずかな動きで,今まで見えていた立体的な格子の形が消え去り,それに代って少し離れた場所に新しい奥行きのある格子が作られるのがわかります。そして,次々と立体的な格子が新たに生まれては消え,まるで格子模様の層がめくられるように変化していく様子を見ることができます。